イベント・展示空間をつくる仕事
果敢にそして柔軟に、
果敢にそして柔軟に、
体感の場を。
前例は、つくれる。
イベントディレクターJ
イベントや展示の会場設計を行なっているのが、文化事業部のイベントディレクションチーム。空間づくりだけでなく、どうしたら人に集まってもらえるか、どんなギミックを盛り込んだら効果的かなど、内容に一歩踏み込んだ企画提案をすることも少なくありません。常に新しいことに注目し、果敢に挑戦するイベントディレクターに、仕事のこだわりや思いを聞きました。
相手の熱意を受け止め、
丁寧に要望をひもといていく
- まずは、Jさんの仕事の内容から教えていただけますか?
- イベントや展示スペースの設計・施工、時には企画から入って空間をつくり上げる業務を行なっています。NHKグループの案件の他に、外部企業や地方自治体からの依頼案件もあります。見積もりや図面の作成はもちろんですが、会場選びに携わることも少なくありません。イベントや展示のしやすさも考えますが、同時に設営時間が確保できるかどうか、持ち込み機材の組み立てや設置はどんなふうに行なったらいいかなども考慮します。商業施設が候補地になっている場合は特に、設営時間がタイトになることもありますし、制約がある場合もあるので、今までの経験も踏まえながら判断しています。
- 具体的には、どんなイベントに携わってきたのでしょうか。
- 2015年くらいから長く携わっているのは、2018年より放送を開始した映像規格、8Kのパブリックビューイングです。放送開始に先駆けて大画面で高精細な8Kの映像を体感していただくために、最新テクノロジーを発表するような展示会イベントへの出展をはじめ、一般の方にも体感いただけるようなイベントを開催してきました。空間設計というと、空間自体のつくり方や見せ方にもこだわりたくなってしまいますが、本当に見せたいのは8Kという高い技術力。プロジェクタールームは、映像の美しさを体感いただくためにあえてシンプルに、光が入らないように留意して設え、多くの方に来場いただくために、映像会場の外側に装飾を施すようにしていました。
- どんな人が来場するイベントなのかによっても、空間設計のアプローチが変わりそうですね。
- 空間設計そのものが変わるというよりは、対象によって説明の仕方が変わったり、求められるポイントが変わったりすることはあると思いますね。「コープデリ生活協同組合連合会」の商品検査センターのリニューアルに伴い、見学ルートの設計を担当させていただいたのですが、この施設では子どもたちが課外授業として足を運ぶこともある場所だったので、シンプルにわかりやすく、という点に重きを置きました。イラスト展示や映像コンテンツと連動するタブレットシステム・アプリケーションの開発も行なったのですが、クイズに参加するような感覚で学ぶことができるストーリーづくりで、少し難しい内容にも興味を持ってもらえるようなエンタメ感を盛り込んでいます。
- そのような企画のプランニングは、Jさんが一人で?
- いえ、社内のチームと外部のプランナーや協力会社の方にも入ってもらいながら、一緒にアイデアを膨らませています。もちろん、先方へのプレゼンは私たちが責任を持って行うので、みんなで広げたアイデアが本当に魅力的なのかどうか、クライアントの要望を叶えているのかどうかもきちんと検証して、最終案としてまとめるようにしています。
アイデアをまとめることも重要ですが、同時にクライアントの要望をヒアリングすることも大切です。その方法もケースバイケースで、言葉のやりとりの中で見えてくることもありますし、模造紙を広げてキーワードを書いていくこともあります。模型をつくって見せた方が要望を聞き出せることもあります。意外にも、お昼ご飯を一緒に食べながらラフに話す中で、相手のことがわかることも少なくありません。打ち合わせでの会話も、プレゼンの一部だと思っています。 - 特に難しさを感じるのは、どんなところですか?
- イベントや展示は、クライアントにとって予算をかけて設ける大きな機会。だから、そこにかける熱量もとても高いわけです。同じだけの熱量で挑むというのは簡単なことではないのですが、熱意をきちんと受け止めて、形として丁寧に返していきたいと思っています。同じ気持ちで目的地を目指しつつも、時には冷静な判断が必要なこともあるので、そこは理解していただけるように誠意を持って伝えていくことも大切。お客さまの要望も叶えていて、同時に自分たちもいいよね!と納得して作ることができるのが理想的だと思っています。そのベストな位置を探していくのが、この仕事の楽しさですし、やりがいでもありますね。
新しいことでも専門外でも、
まず自分でやってみる
- 案件に取り組む時に、こだわっているところはありますか?
- 私がやっているのは、ディレクション業務。図面はこの人、アプリはこの人、というふうにそれぞれの専門家にお願いして、チームでひとつのものをつくり上げていきます。ディレクターは自分で手を動かすと言うよりも、指示を出したり、それぞれの専門セクションから上がってきたものをチェックしたりすることが多いのですが、私はあえて自分で手を動かす部分もつくるようにしています。もちろん、一人で完結させたいわけではないのですが、会場のゾーニングを図面にしてみたり、映像コンテンツの絵コンテを書いてみたり。言葉では伝えきれないものを少しだけ形にしてから専門セクションに渡した方が、クライアントの要望を伝えることができますし、一歩踏み込んだ打ち合わせをすることができる気がするんです。
- 専門外だからやらない、ではなくて、まずやってみるんですね。
- そうですね、まずやってみるタイプかもしれません。8Kのパブリックビューイングを海外で行う機会があって、それも率先して担当ポジションに手を挙げました。ほら、海外で仕事とかかっこいいじゃないですか(笑)。それで、海外で造作をやっている企業にコンタクトを取ってできるかどうかの裏をとりつつ、プランをまとめて上司に了承を得て。韓国、オランダ、アメリカと三カ国のイベントを担当しましたが、実際にやってみると想定外のこともたくさんあって、それはもう大変で。オランダの時は、ドイツの工場に造作物をつくってもらったり、職人さんはポーランドから来てくださったり。国境を越えるから、東京のイベントに埼玉の工場から物が届いて、という次元じゃないわけです。スケジュールの組み立てもいつものようにはいかなくて大変でしたが、安全に遂行することを第一に考えながら、どうにか実施することができました。
- イベントだとコロナ禍での影響もあったと思いますが、どうですか?
- そうですね、リアルイベントの仕事がほぼなくなった時期もあったのですが、東京・青山にある「TEPIA先端技術館」の依頼でバーチャルミュージアムを作ったんです。他の施設でもまだそのような取り組みがなく、サンプルがない中で進めることになったので、かなり難航しましたね。でも、つくり方も段取りも、経験したことで学んだことはとても多いです。中のコンテンツも大切ですが、同じくらい操作性を重要視しなくてはならないということも学びました。これまでは、リアルな空間を作って、そこに人が足を運んで体感していただけるというところがテレビではできないよさだと思っていて、人が集っていることに一番の喜びを感じていました。しかし、これからはデジタル空間やメタバースももっと当たり前になってくると思います。この分野はまだまだ経験が足りないので、また携わりたいですね。
キャタピラーの精神で突き進み、
歩きやすい道を作る
- 常に臆することなくチャレンジしている感じがしますね。
- そうかもしれません。もともと新しい技術やガジェットを試すのも好きなんです。今では当たり前のようになったWEB会議も、10年くらい前からやっていたので、コロナ禍になって必要を迫られた時に使い方を聞かれることも多くて。ドローンとか、360°カメラとか、具体的に改善されそうなことが思い浮かんだら、情報を集めてみて、使い方がわからなくてもまず買って使ってみるようにしています。
ちなみに今、スマートホーム化もトライしています。「ただいま」って言ったら、電気がついて、エアコンがついて、音楽が流れて。今のところ、かなりいいですね。友人知人には、機械と話してなんて気持ち悪いなんて言われるんですけど、将来的にはこれが当たり前になると思いますし、「おやすみ」って言ったら電気が消えてくれるとかよくないですか(笑)。 - これから取り組んでみたいのは、どんな仕事ですか?
- ユニバーサルデザインについても学んでいるところなので、より広く伝わるものをつくれたらいいなと思っています。地方での小規模なイベント開催も興味がありますし、海外でのPR案件も開催できたらいいなと思いますし、オンラインでのイベント開催プランも考えてみたいですね。8Kの技術についても、海外での展示を経験して、あらためて技術力のすばらしさを感じたところなので、またステップアップした形で挑戦したいですね。
- Jさんが仕事をする上で、大切にしていることを教えてください。
- できるだけ、「できない」と言わずにやれることを目指して、どうやったら解決できるかを試行錯誤しながら考えてみたいと思っています。やってみたことがないことも、まずはやってみる。舗装されていないガタガタ道も、歩けないと言わずにまず歩いてみる。そういう精神でこれからも取り組んでいきたいですね。キャタピラーみたいな感じで、悪路を進んだり未開拓地を掘り進めたりしていくのは、得意ですし好きなんです(笑)。やったことがないことに挑戦すると、新しい景色を見ることができそうですしね。そして、自分がやってきたことを整えて標準化することも、同時にやっていきたいですね。自分しかできないではなくて、誰でもできるようにしておくことも、大切なことだと思いますから。
プロフィール
2015年株式会社NHKアートに入社。入社以来、ずっとイベントプロデュースに仕事に携わって8年。NHKの放送技術を伝える展示会やパブリックビューイングをはじめ、特に テクノロジー関係の展示を得意とする。好きなことはラグビー観戦やバーベキューをはじめ、さまざまなことに挑戦中。