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2023年5月掲載

美術で番組に付加価値を

ドラマ番組の美術進行とは

  • 番組美術制作ディレクター M (制作部所属/2018年入社)

テレビセットへの疑問がきっかけに

学生時代は建築材料を専攻していたので、就職活動を始めた当初は建築現場の仕事をしようと考えていました。そんな中、建築の研修で実際に木造建築の建て込みを行うことがありました。休憩時間に研修を受けていた仲間とテレビを見ていると、ふと「テレビセットの建て込みってふつうの建築と何か違うのかな?」という疑問が湧きました。このちょっとした疑問がNHKアートの美術進行という仕事を知るきっかけとなりました。

美術を幅広くコーディネートする

美術進行は演出やデザインの意図イメージなどをくみとって、美術の各専門分野の協力を得ながら、ドラマ番組の美術全体をコーディネートする仕事です。
ドラマの中で使うセットや小道具はもちろん、番組に必要な食べ物なども美術の一部です。
現場でそれぞれ専門分野のみなさんと同じように動きながら、番組を付加価値のある美術作品となるように作り上げていくことが美術進行のやりがいです。

大河ドラマ『青天を衝け』の美術セット・小道具

試行錯誤の苦労はいい思い出に

大河ドラマ『青天を衝け』の進行業務では、主役である渋沢栄一の写真製作を担当しました。
当時の写真は「鶏卵紙」という紙を使っていたのですが、全く同じ紙で写真を作るというのは撮影までの期間やコストの面でも厳しく、「どうにか当時使っていた写真と同じような雰囲気にしたい」と思い、本物の鶏卵紙を買って調べたり、博物館に聞いたりと、試行錯誤を繰り返しました。最終的にはとてもよいものができ、思い出に残る業務となりました。

現在はドラマ10『大奥』の美術進行を担当しています。
物語の軸となる「赤面疱瘡」という架空の病気の表現方法には特に力を入れ、議論を重ねました。試行錯誤の制作秘話はこちらのコラムで詳しく紹介しています!

ドラマ10『大奥』より江戸城の美術セット

撮影中はひたすら収録の準備に集中していましたが、放送が始まると、SNSなどを通じた視聴者の皆さんの声や、同僚や周りの人からも『大奥』の話題に頻繁に出るようになり、いろいろな人が見てくれていることを感じました。
シーズン1の放送中にNHKホールで開催されたファンミーティングでは、特設会場としてロビーに御鈴廊下の一部を再現したセットや、主要キャラクターの衣裳展示コーナーを設けたのですが、セットや衣裳と記念撮影をする大勢のファンの方々の反応を見たときに、「すごい番組を手がけることができたんだな」と実感しました。
美術進行のしごとでは、普段は視聴者の方々の反響を直接感じられる機会はなかなかないので、なおさら嬉しかったです。

「大奥ファンミーティング」ではNHKホールにセットの一部や主要キャラクターの衣裳を展示

言葉のキャッチボールでよい美術を

私は美術進行としての業務の中で、いつも気にかけていることがあります。 NHKアートの協力会社には、大道具や造園、装飾、衣裳など、いろんな分野の方々がいます。協力会社のみなさんに発注を行う美術進行としては、「何々を発注したいです。お願いいたします。」で、終わらせてしまうこともできます。しかし、協力会社の方々はその分野に特化しているプロフェッショナルです。皆さんに私の希望がより伝わるように、一言で「何々をお願いします。」で終わらせず、「このような場面で、こういう理由があり、それを踏まえた上で何々をお願いします。」と、受注する際に納得してもらえる説明ができるように心掛けています。そのため、発注をする際は、自分なりにその分野を勉強してから発注をお願いするようにしています。相手と会話のキャッチボールをすることを前提に、自分の引き出しを多く持つことが、美術進行として働く中で大切なことだと思います。

自分の引き出しを増やすこと――入社5年目をむかえて

後輩も増え、周りの協力会社の方からも経験値を問われる年代になってきたことを実感し、自分の業務にますます責任を感じるようになりました。
「美術進行」は、これまで手がけた業務の経験値がそのまま活かされていくしごとであると感じています。小さなものから大きなものまで、自分が担当するしごとを一つひとつ思いをこめて行うことが、自分のなかの引き出しを増やし、必要なときにその引き出しを開いて提案しやすくする、大切な蓄積だと思っています。
何か特別な資格が必要ということはありません。「いろいろなことを身につけたい!」という気持ちが、美術進行のしごとのベースになっています!

ドラマ10『大奥』の美術進行 試行錯誤の制作秘話はこちら

NHK広報局noteに掲載されたドラマ10『大奥』のセットや障壁画についての記事はこちら