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2023年3月掲載

大道具美術の仕事を担うわたしたちの現在地

~大道具美術の仕事とは

NHKアートはテレビ草創期1961年の創立以来、放送文化の発展を総合美術会社として支えてきました。その中心となる業務が、NHK番組の美術制作と進行です。今回は、テレビセットを製作し、設営・撤去から搬入出・保管・管理までを支える大道具美術部門で、先輩と後輩として切磋琢磨するふたりに話を聞きました。

対談メンバー

  • K(大道具製作管理ディレクター/美術業務部所属/2013年入社)
  • A(大道具製作管理ディレクター/美術業務部所属/2017年入社)

Q.この仕事を選んだきっかけは?入社前、大道具の経験や知識はありましたか?

K:民放のバラエティ番組を見てものづくりに携わりたいと思ったのがきっかけで、美術会社に所属しました。NHKアートにはキャリア採用で入社しましたが、その前を含めて大道具の大工を10年、その後も営業、製作管理も含め、大道具美術を担当してきました。

A:もともとものづくりが好きで、学生のときにアルバイトでイベントの施工を手伝ったことがありました。体を動かして目に見えるものができあがっていくのを見るのが楽しかったです。そんなときに会社を探していて、NHKアートを見つけました。アルバイトの経験から、搬入や設営、撤去というものの流れや人の動きは少しだけ知識がありましたが、テレビのセット設営を初めて見たのは入社後。衝撃でした。先輩方にたくさん教えていただき、教わったことを自分流に落とし込んでいく模索の日々でした。下地がなくゼロからのスタートでしたが、かえって吸収しやすさにつながったのではないかなと思います。

Q.大道具美術の仕事の内容を教えてください。仕事でこだわっているのはどういうところですか?

A:美術発注は基本的に2週間前ということになっていますが、明日のための発注というびっくりすることもあります。すべてが新規製作の場合には1カ月前からスタートすることも。美術進行の皆さんとのコミュニケーションにはスピード感を持って対応することを意識しています。協力会社の皆さんにも、負担にならない範囲内で早めに動いてもらうように話をしています。

K:美術発注の日が軸になってそれぞれの作業が進められます。基本的にはそのタイミングでまず見積ですが、発注後の修正も多くあるので、製作と見積の作業が平行して対応します。特に手の込んだセットを作る番組では、その作りを深くまで理解しようと努めています。ただそうすると時間もかかるので、バランスが大事です。

A:2021年には東京オリンピック・パラリンピックのセットをKさんとともに担当しました。特に印象に残っているのは『東京2020オリンピック デイリーハイライト』の番組セット。デザイナーのこだわりの"ねじり"があるセットで、作り方によって見え方が変わり、予算も製作方法もとても難しかったのですが、完成したセットを見たデザイナーの方がとても喜んでくれました。とにかく安全に終わることができてよかったです。

Q.大道具セットはリアルな番組美術の代表ですが、最近のリアルとデジタルが融合したセットが多くなっている動きをどう感じていますか?

K:大道具セットをはじめとしたリアルな美術と、バーチャルセットやVFXなどリアルセットを補完することができるデジタルの美術。それぞれ特長がありますが、製作量という点から人員や予算など、大きく今後の舵取りが変わってきていると感じています。

A:リアルとデジタルの融合ということが大きな方針に掲げられていますが、融合というよりデジタル寄りになっていると感じる部分も。リアルとデジタルの両方が分かる人材が求められており、そうなっていかないといけないと感じています。
時代はデジタル寄りにならざるをえないのだと思いますが、デジタルに寄っていったものの中でも、またリアルに戻そうという動きも今後出てくると思います。そうなったときにきちんと自分が対応できるように、知識や経験、協力会社の皆さんとのつながりといったものを大切にし、また自分だけでなくどう後輩たちに残していくかということも考えて仕事をしていきたいと思っています。

プロジェクト写真

Q:ではさいごに、テレビの大道具美術の仕事、そのやりがいを教えてください。

A: 番組制作に美術で関わっているので、まず一番は視聴者の皆さまが楽しんで番組を見てくれることですね。
ですが改めて「やりがいは?」って聞かれて考えると、大道具セット製作のやりがいって実はまだまだよくわかりません。
例えば「こんなセットを作りたい!」という相談を受けて、その期待に応えようとがんばります。ですが、進めながら予算や運用しやすい仕様などどんどん必要な条件も加わってきます。そうすると、実際に納めたあとも「あれで納めたことは自己満足だったのではないか」「もっとなにかできたんじゃないか」と振り返って、毎回反省しています。でもそのようにきちんと反省を繰り返すことは、前まで考えられなかったことを、次に提案することにつながります。そんなときに、皆さんが喜んでくだされば「これがやりがいなんだ!」と感じることができます。でもそれもまた自己満足ではないか、なんてまた思ってグルグルが続きます。
そんなわたしですが、きちんとおもしろさを実感しながら大道具美術の仕事をしています。常に新しい発想に触れることができるこの仕事はおもしろいです。また自分が「楽しい!」と思うものをテレビを通してたくさんの視聴者の方々に共有することができる、このことをやりがいだと信じて、これからも大道具美術の仕事をがんばっていきたいと思います。

K:あらためて言葉にするのってむずかしいですね。
達成感を感じるのは、デザイナーや美術進行、協力会社の皆さんと一緒に、試行錯誤しながら一体になってセットを作り上げたときです。でもAさん同様、ふりかえって反省することも多いです。そうやって失敗、反省を踏まえて次につなげていくことができればと思っています。
わたしは今は製作管理の仕事をしていますが、前職では実際にセットづくりを行っていました。プライベートでもDIYで本棚やテーブルを作るほどものづくりが好きです。大道具美術の仕事は、ものづくりに携わることができる仕事、それがわたしのやりがいです。