COLUMN

2025年3月掲載

平安文化を体験できる!オリジナルVRコンテンツを開発

こんにちは!開発部門に所属するCGディレクターのMです。
昨年、NHKアートでは、テレビ美術のノウハウと時代劇の知見をいかして、オリジナルVRコンテンツ「平安宮仕えVR」を自主制作しました。

バーチャル空間に再現された平安時代の寝殿造りのお屋敷を舞台に、建物の中や庭園を移動しながらクイズやゲームに挑戦するなど、インタラクティブな演出で楽しみながら歴史文化を体験できるコンテンツです。

「平安宮仕えVR」紹介動画

社内有志による開発プロジェクト

このプロジェクトは、社内の有志による事業開発提案として2022年にスタートしました。
時代劇に描かれる当時の暮らしや風俗、文化を身近に体験し知識を得ることをテーマに、リアルとデジタルの両領域の美術を手掛けるNHKアートならではのコンテンツを作りたいと考えたのが開発のきっかけでした。

舞台に選んだのは、大河ドラマ『光る君へ』に登場した平安時代。
戦国時代や江戸時代などに比べ、あまり映像化される機会がなく、多くの人にとってはなじみの薄い時代だったのではないでしょうか。

日本各地の寝殿造り建築や庭園の視察、『光る君へ』のセットのノウハウ、歴史史料や時代考証を踏まえ、NHKアートの番組美術デザイナーとCGディレクターがVR空間のデザイン・設計・構築を行いました。
脚本、キャスティング、装飾・扮装の手配、障壁画作画、美術進行から営業展開・運営まで、NHKアート各部署のノウハウを結集し、「オールNHKアート」で取り組みました。

また、コンテンツ開発にあたって演出アドバイスをNHKエンタープライズに、『光る君へ』をはじめ数々の大河ドラマの風俗考証を担当する立正大学の佐多芳彦教授に時代考証アドバイザーとして監修のご協力をいただきました。

VRワールドのデザイン資料(左)と完成した寝殿造りの3DCG(右)

文化を身近に体験する工夫―平安貴族のお屋敷で働く「女房」になりきってミッションにチャレンジ!

「平安宮仕えVR」では、プレーヤーはとある貴族のお屋敷で働く「女房」(にょうぼう/貴族につかえる女官)になりきって物語に沿って出題されるミッションに挑戦し、「女房のお仕事」をゲーム感覚で体験します。

VRゴーグルやコントローラーを使用することで、平安時代にワープしたような没入体験をすることできます。

選んだ香りが実際に漂ってくるという特別な4D体験も

このコンテンツの特徴は、CGパートと実写映像パートが融合したストーリーと、クイズやゲームなどのインタラクティブイベントです。

「女房のお仕事」として、「御簾を上げる」、「化粧道具を選ぶ」、「唐衣(からぎぬ)につける香りを選ぶ」、「庭園の花を摘む」の4種類のミッションが出題され、コントローラーを使って建物の中を移動したり、道具や花を手に取ったりしながらクリアしていきます。

寝殿造りの庭園を彩る季節の花々を探すミッション

上司にあたる女房、「装束師」(しょうぞくし)から与えられたお仕事がクリアできたかどうかによって、プレーヤーの「女房レベル」が上がり、ゲーム終了時の「女房評価」が変わります。
最上位である「上臈女房」の評価を目指してプレイするという内容です。

実写でリアルな平安文化・風俗を学ぶ

ミッションの合間には、平安時代の貴族女性の化粧や装束といった風俗や文化を学べる実写解説映像パートを設けました。

平安時代の化粧を実際の映像で見ることができます

キャストを3Dスキャンし、映像の中で3Dモデル化して立体的に見せ、「本物」の精細な質感を伝えています。
十二単は、体の中心と後ろに長く広がる「裳(も)」の2回に分けて撮影したデータをつなげました。
また、バーチャル空間の御簾越しのシーンは、フォトグラメトリーで作成したモデルを使用して再現しました。

実写撮影では、ドラマの撮影を専門的に行うNHKテクノロジーズの撮影部と、大河ドラマの所作指導を数多く担当される花柳寿楽先生にご協力いただきました。

“本物”が持つ精細な質感を伝える実写パート(左)、実写パートの収録で使用した小道具をモデリングしてリアルに再現(右)​

イベントやセミナーでの体験会

ここまでご紹介したVRゴーグル版「平安宮仕えVR」のほかに、ゲームコントローラー版「平安お屋敷散策VR」も制作しました。
ゲームコントローラー版「平安お屋敷散策VR」は、お屋敷と庭園を自由に散策するコンテンツで、VRゴーグルを着用できない方や複数名のグループでも体験することがきます。
現在、NHK放送センター・ハートプラザに常設展示しています。

これらのコンテンツは、NHKアート主催イベントや地域局のイベントなどで体験会も実施し、10代から80代まで、のべ250名以上の方にご体験いただき、「世界観に入りこめた」「平安時代にいるような体験ができてうれしかった」とのお声をいただきました。

また、2024年12月に開催されたNHK文化センター主催「特別映像で体感!平安宮中と貴族のくらし」では、セミナーを担当された佐多教授とともに開発担当の社員が登壇したほか、VR体験会も実施しました。

コンテンツ開発に込めた思い

VR空間で体を動かしながらプレイする没入感に加え、実写撮影パートを通して当時を生きた人々をリアルに感じることができる、「平安宮仕えVR」。
リアルでもVRでも、寝殿造りや庭園を等身大で体験できる空間は珍しいのではないでしょうか。

歴史考証の佐多先生にお話を伺いながらリサーチをして平安時代を知る中で、女房の仕事が階級で細かく割り振られていることが面白いと思いました。
上司に怒られたり、時間内にタスクをこなさなければいけなかったり、「現代と同じように平安時代も働くのは大変だ」というリアリティーを感じてもらえれば、自分目線で平安時代を体験できるのではないかと考え、「女房のお仕事体験」というアイデアが生まれました。

ドラマでは見落としてしまうような細かい文化的要素や、リアリティーを感じられる描写も盛り込み、『光る君へ』の作品の世界に魅力を感じていただいた皆さんにも楽しみながら体験してもらえるよう工夫しました。

同時に、さまざまな年代の方に「初めてのVR没入体験」を楽しくお届けできるよう、ゲーム内容や操作の分かりやすさにもこだわって制作しました。

NHKアートならではの文化体験コンテンツを通じて、現代からは想像もできない平安時代を身近に感じ、「平安とVR」、どちらにも触れるきっかけとなればうれしいです!